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第51話 猛暑の部屋で交わす未来

last update Last Updated: 2026-01-06 09:30:11

 六月中旬。夏至を越え、夏が深まりつつあった。

 今年は猛暑なのだろう。まだ午前中、室内にいるにも関わらず、既に背中にじっとりと汗が滲む。

 イルゼは先程やって来て正面に座したばかりの精神科医をジッと眺めていた。かれこれ彼の診察はこれで四度目だ。

 別に精神異常はないが、療養の名目上とのことでミヒャエルは定期カウンセリングに彼を呼んでいた。

 しかし、その内容は人生相談に近しいだろう。

 初老の精神科医は相変わらず気難しそうな顔だった。

 額から滲み出る汗をハンカチーフで拭い、やれやれと首を振る。顔だけ見れば、やはり近寄りがたい威圧感を覚える。

 だが、イルゼに視線を向けると強ばった表情は緩やかに解けるように綻んだ。

「こうも暑いと困りますねぇ。喜ぶのは葡萄農家だけでしょう」

 なぜに葡萄農家だけが喜ぶのかよく分からない。

 イルゼが首を傾げると、彼はほっほと笑みをこぼして白く濁った瞳を向けた。

「葡萄は難儀な果実でしてね。最高級の葡萄酒になるには、厳しい暑さがあった方が旨みが増すそうですよ。そして初冬まで実を残したものは、中が引き締まって甘みを増すのです。これで作った葡萄酒は実に美味いのですよ。苦しい思いをするほどに、人はそれだけ優しくなれるものなので、葡萄と人の精神は少しだけ似ているように思えますね」

 さすが精神科医なだけある。こうして話を繋げたのかと感心して、イルゼが深く頷くと彼はハンカチーフを置いて人の良さそうな笑みを向けた。

「イルゼさんはそれだけお優しい人間になっているのではと思いますよ。ところで、先のことはもうお決めになったのですか?」

 こうも肯定されるのはムズ痒い。イルゼは戸惑いつつも頷いた。

「……この療養を終えたら、修道院に身を寄せようと考えています。先生のおっしゃる通り、私……自立したいです。義兄にいさんに会えなくなることはとても寂しく思いますが、一度しかない自分の人生をしっかりと歩みたいと思い
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